災害時の口腔ケア

院長コラム 第5回 2004.11.20

本当に今年は、天変地異に多く見舞われます。先月のコラムを書いていたのは季節外れの台風の上陸で大変な時でした。

そのわずか数日後に新潟中越地震が起こり、現在も多くの方々が避難所での生活を余儀なくされているご様子で心よりお見舞い申し上げます。 私どもの診療所のお隣は新潟放送ですので、被災直後は皆さん休日も出勤され情報収集に奔走されていました。 長岡に支社があり当初は大変心配されていました。

阪神淡路大震災のときにも経験したことですが、地震発生直後は余震等の危険を回避しながら安否の確認や、被害状況の把握に集中します。同時に被災者の安全確保、支援物資やボランティアの受け入れや分配を行ないます。そして、避難者のライフラインの整備に力が注がれます。

この期間は数日から数週間に及び、医療救護活動もピークに達します。まず外傷やショックの治療を行ないます。次に過労やストレスによって起きる様々な変化を的確に捉え二次的障害の早期発見と治療に努めます。

こうして一月位過ぎるとようやく、被災地の復興活動が始められます。医療面では、持病の悪化や変調を訴える方が増えてきます。歯科医療救護活動が活発になるのも丁度この時期です。

当然初期にも顎骨骨折など口腔領域の外傷治療などもありますが、頭部に近いため多くは病院に搬送されそこでの治療となります。現地の仮設歯科診療所には、入れ歯を無くした方、歯槽膿漏が悪化して腫れた方、虫歯が痛み出しだ方、歯を食い縛っていたために顎が痛くなった方、など様々な歯科疾患でお悩みの方々が訪れます。

特に被災時に口腔ケアが疎かになるのは常の事ですので、少しでも早い時期に悪化を防ぐための援助が必要となります。虫歯や歯周病を悪化させないためだけでなく、肺炎予防のためにも口腔ケアはとても重要です。

先の阪神淡路大震災のときには、これが出来ずに誤嚥性肺炎で亡くなられた方が何人もいらっしゃいました。普段は平気でも過労時には、抵抗力の低くなった状態でむせたりするだけで簡単に肺炎を起こしてしまいます。

また通常と違って直ぐに適切な処置を受けられずに悪化させてしまうケースも多いようです。被災時に歯ブラシどころではない!とお思いでしょうが、単に歯垢をとって口腔内細菌のコントロールをするためだけでなく、過労時に免疫力を低下させない最も効果的で簡便な方法が歯を磨く事なのです。水が無くても歯ブラシをすると唾液が出てきて口腔内を潤してくれます。この唾液こそが、身体のホルモンバランスを保ち免疫力を高めるためにとても大切なものなのです。

ですからかつて私が勤務していた自衛隊歯科の後輩達も治療行為だけでなく、そのことをお伝えするためにも現在も現地で奮闘中です。もちろん地元や近隣の歯科医師会の「歯科医療救護班」の先生方もご苦労されています。私の所属している中央区の京橋歯科医師会にも「歯科医療救護班」が編成されていて、私もそのメンバーの一人です。

中央区やその周辺で大規模災害が発生した時に中央区の要請を受けて活動することになっています。毎年9月に防災訓練が行われ常にいざという時の準備をしています。

被災者の方々におかれましては、ご自身はもとより大勢の方々の善意の力で、一日も早くもとの暮らしを取り戻されますよう心よりお祈り申し上げます。規模の大きな災害が続いて発生するとつい忘れがちになりますが、先の台風で被害に会われた方々も、同じようにご苦労されていらっしゃると思います。寒さに向かってくれぐれもお大切にお過ごし下さい。