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 コラム 第88回     2011. 10. 28

やっぱり口腔ケアは大切

 歌舞伎座もようやく地上の工事が始まり、骨組みが積み上がってゆくのを興味深く眺めています。 このところ、気持ちの良い日が続きます。但し今年の気象は、全く読めません。 例年よりも早くインフルエンザが流行りだしました。皆さん、くれぐれもお風邪を引かないように、気をつけてください。 うがい、手洗いの習慣を身につけて、元気で過ごしましょう。

 うがい手洗いだけでなく、歯磨きの習慣も忘れないようにしましょう。 口の中の細菌が増えるとネバネバして、細菌のにおいで息が臭くなります。 これをそのままにしていると、細菌が呼気とともに気管支を越えて肺にまで侵入してゆきます。 これで直ぐに肺炎を起こすわけではなく、排除機転が働いて、粘液腺の分泌が盛んになり、痰が多くなります。
 高齢者の死亡原因で最も多いのが、窒息によるものですが、これは単に食事を喉に詰まらせた結果だけではなく、就寝中に起きる窒息も多いのです。 こんなことになってはいけないので、痰を溶かす薬を飲んだり、吸引をしたり、機能低下に陥った肺を補うために、在宅酸素などの医療が必要になります。 こうなると、片時も目を離せず、家族の負担は増えるばかりです。

 また、こんな状況になると、寝込むことも多くなり、飲み込む力が弱まってきます。 筋力の衰えがもたらす結果は、誤嚥性肺炎の危険性はもとより、低栄養や、呼吸の微弱化が起こります。 今度は生きるために必要な栄養補給を経鼻経管栄養や胃ろう、中心静脈栄養といった医療が必要となります。 そうなると家族はさらに大変で、必ず誰かが側にいなくてはならなくなります。 それにこれらの介助は、家族か看護師しか行ってはいけない手技になります。

 こうなる前に、口腔ケアを毎日欠かさずやっておきましょう。 夜寝る前には歯磨きとうがいを徹底的にして、寝ている間に増える細菌の数を出来るだけ少なくしましょう。 たとえ、口をあいて寝ていても肺に進入する細菌の数が少なくなります。
 朝起きたときは、うがい、歯磨き、口と顔のマッサージ、発声練習、体操、深呼吸と順番にしてゆけば、しっかり目が覚めてきます。 そして美味しく朝ご飯を頂きましょう。食事の後は、しっかりと歯磨き、うがいを行います。朝食のときだけではなく食事の前後に必ず行います。 すると口の中の様子で、体調がわかります。体調のよいときは、口腔ケア全てが順調にこなせます。 よくないときは、食事にとろみを付けるなど工夫したりして、むせないように気をつけましょう。
 口腔ケアの手技は、誰がやっても構わないので交代でできますから、家族の負担は軽くて済みます。 口の中をきれいにして、首や咽喉の筋肉を鍛え、腹式呼吸法をする、信じられないでしょうが、これだけで見違えるように元気が出てきます。

 上に書いてきたことを確信する実例が、最近身近にありました。86歳になる家内の父は、6年ほど前に脳梗塞で左半身麻痺となり、 ヘルパーさん方やデイサービスでお世話になりながら、何とか在宅生活を続けています。
 今月入院して病院でお世話になりましたが、2週間ほどで退院し帰ってきました。 入院中のある夜、仕事帰りに様子を見に行くと、口を開いていびきをかいて寝ていました。 ふと気になって、口の中をのぞいてみると、麻痺側の歯の周りに食べかすが、べったり残っているのが見えました。 このままでは寝ている間に誤嚥性肺炎を起こすと思い、無理やり起こして口腔清掃をしました。
 痰がらみもひどく、呼吸もヒーヒー音がしていましたが、なかなか痰を出せない状況でした。 入院中は、ほとんどベッドで横になって過ごしていたこともあり、退院時には足腰だけでなく、 特に嚥下力(食べ物の飲み込み)と痰を出す力が弱ってしまいました。 今後在宅での暮らしには、訪問看護が必要となり、痰の吸引や在宅酸素もそろそろ考えてくださいと言われる程の衰え様でした。

 退院後は、ヘルパーさん方に食事の見守りを徹底してもらい、口腔清掃、嚥下体操、腹式呼吸など、気合を入れてやるうちに、 今は入院前よりも元気が出てきたように見えます。 訪問看護師さんにも、ビックリするほど良くなりましたと言われて、喜んでいるところです。


10月の歌舞伎座 (2011/10/25)

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