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 コラム 第76回     2010. 10. 26

術前術後の口腔ケアのお話

 このたびの奄美地方の集中豪雨は、かつて経験したことのない災害です。 お天気キャスター森田さんによると、わずか10キロ四方の土地にわずか1時間で東京ドーム10杯分以上の水がまかれ、 それが数時間も続いた状態、とのことですから、想像に絶するものがあります。被災地の一日も早い復興を願うものです。

 先日国立がんセンター中央病院と連携歯科医療機関の講習会があり、行ってきました。 システム作りはまだまだこれからといった感じでしたが、内容はとても素晴らしいものでしたので、ご紹介したいと思います。

 築地の国立がんセンターでは、毎年4000人を越す患者さんが手術を受けているそうです。 そのほとんどが挿管を必要とする全身麻酔だそうです。
 意識がなく反射も抑制されている状態で、口から気管に管を入れるとなると、口腔内が不潔だと管の周りは細菌だらけになって、 術後に肺炎を起こす確率が高くなります。また、術後の集中治療室では人工呼吸器で管理されているため、この間は食事が出来ず、 口腔内の細菌の量がとても増える環境になります。ですから、日頃から口の中をきれいにしておくのはもちろんですが、 手術前後の口腔ケアが大変重要になります。

 これは、がん患者さんの手術に限ったことではなく、全身麻酔で行う手術全てに当てはまることなのですが、今まであまり関心が寄せられていませんでした。 手術は上手くいったのに、不潔な口腔内環境のせいで、術後に重篤な肺炎や敗血症を起こして亡くなってしまうケースは稀ではありません。 日頃から歯磨きや入れ歯の手入れを心がけて、かかりつけの歯科医で定期的に歯科健診とクリーニングを受けていれば心配する必要はないのですが、 残念ながら未だそのような人は少ないのが現状です。

 手術が決まると入院までの間に、連携の歯科医療機関で口腔ケアを受け、同時にがんセンターから提供された資料にもとづいて、 術前術後に口腔内環境を良好に保つための患者さんごとのメニューが作られ、自己管理が上手にできるように指導します。  また、歯科医療機関からは患者さん個々の特徴をがんセンターに連絡し、相互に情報を共有します。

 手術のために入院してからの、術前の口腔ケアはとても重要です。がんセンターにおいては、これは院内の歯科でしっかり行って、 口腔内細菌が気管に流れ込むリスクを軽減させます。また、術後挿管中の口腔ケアは、医師にチューブが外れないように把持してもらい、 看護師が吸引しながら処置し、一般病棟に移ってからは、歯科医、歯科衛生士の指導のもと、本人が歯磨きなどを徹底します。 入院が長引く場合には、連携歯科医療機関の歯科医に訪問してもらうこともするのだそうです。 そして退院後は、かかりつけの先生のところで診てもらうという流れになります。

 放射線治療や化学療法などを受ける場合はもっと複雑で、使用される薬の副作用で口内炎を起こすことも多いため、更なる口腔ケアが望まれます。 体調管理とともに、どのような連携が必要なのかが、これからの課題になります。

 いずれにしても、日頃から口腔内を清潔に保つことが、むし歯や歯周病予防のためだけでなく、全身の状態を良くするためにも重要だということが お分かりいただけたでしょうか。 高齢社会になるにつれ、誤嚥性肺炎を予防するために口腔ケアに気を配るという事はよく知られる様になって来ましたが、もしもの手術時にも、 口腔ケアが同じように大切だということを、覚えておいてください。

10月の歌舞伎座 (2010/10/26)

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