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 コラム 第72回     2010. 6. 29

歌舞座の解体工事

 
急に暑くなってきました。歌舞伎座の解体工事もいよいよ本格的になって来ています。毎日職人さんたちが屋根の上で働いています。今は足場が組まれ、外壁が殆んどブルーシートで覆われています。数日前からは、屋根瓦の撤去作業が始まりました。職人の方には、腰痛に悩まされている方が多いと聞きます。重い物を運ぶことや、足場の悪いところで踏ん張って作業をする事で、腰をひねったり、体の痛いところをかばって作業するからなのだと思います。

 
腰痛や肩こりなどを我慢していると、噛み合わせがおかしくなることがあります。以前にも書いたことですが(コラム第41回 -歯で知る体の変化-)、人間は二足歩行をするために、両足でバランスをとらなければなりません。さらにバランスは、腰から背中、首へと体の上半身へ登って保持していきます。最終的に歯の噛み合わせでもバランスを保つ動きをしています。体が右に傾いたとき、顎は右に偏移しますし、下を向いたときは下顎が前方に偏移します。重い物を持ち上げて運ぶときに、上下の歯を噛み合わせると噛み合わせないときよりも力が出せます。ただそれは瞬発力を出すときで、長続きはしません。逆に噛み合わせ続けていると、歯根膜炎や、顎関節炎を起こしてしまいます。とび職のような作業職は、バランスの悪い高所での作業になるので、背骨やその周りの筋肉に思わぬ力が加わって傷めてしまうこともしばしばでしょう。


 職人さんの働く姿を見ながら、大学院生の頃、企業健診をした時のことを思い出しました。大きな製鉄所に一週間泊り込みでいろんな部署を回ったときのことです。そこは、24時間操業で、夜勤明けの現場作業員から、事務職まで、一日に何百人もの歯科健診をしました。一緒に回った先生たちとの共通の感想は、現場作業員のほうが、事務方と比べて体も歯もガッチリした人が多かったということでした。その理由を探るため聞いてみると、体を使う分自分の健康に気をつけている人が多かったようでした。
 
こんなことを書くと事務方に怒られそうですが、同じ職場でも虫歯も歯槽膿漏も多く、治療を受けずに放置している人も目に付きました。ガッチリタイプがむし歯になりにくいというのではなく、何より現場作業員のほうが圧倒的に受診率が高かったのも覚えています。職場環境から、体に気をつける方が多かったのでしょう。一カ所の健診での経験だけですべてに当てはまるとは言えませんが、その傾向は大いにあるようです。

瓦の撤去作業 2010年6月17日撮影  


歌舞伎座の解体に携わっている職人さんたちも、朝早くから作業にかかり、10時、お昼、3時と毎日決まった時刻に休憩に入っているようです。 その時刻になると、大勢いた作業員が誰もいなくなります。 この規則正しさが事故なく健康で作業を進めるのに大事なことなんだろうと、昔のことを思い出しながら思いました。 体に気をつけて作業を進めて欲しいものです。


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