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 コラム 第59回     2009. 5. 26

新型インフルエンザのお話

 銀座の街路樹にも青葉あふれる季節となりました。歌舞伎座入り口には取り壊しまでの日数計が置かれ、毎日変わらず賑わっています。新型インフルエンザのことで持ちきりの昨今ですが、街行く人々は穏やかに、この清々しい季節を楽しんでいるようです。

 しかし、地球の温暖化など、自然界のバランスの乱れを思わせられる、真夏のような暑さが突然にやってくる日もあります。人類は文明科学の発達と共に、化石燃料などの資源を片端から応用しつづけ、あたかも地球を征服したかのように振舞い過ぎたようです。自然や他の生き物との共存を忘れかけた結果、今その逆襲が始まっているのかもしれません。

 進化した細胞をたくさん持つヒトが、細胞ではなくタンパク質の塊の中にDNAかRNAのどちらかしか持たず細胞に取り付いて変態を繰り返すウイルスに、翻弄されているのが現状です。HIVウイルス、肝炎ウイルス、インフルエンザウイルスと、目に見えないウイルスはいたるところにうごめいています。ウイルスの実態を疫学、病理学、分子生物学、薬理学など多方面から分析して、その実態を見極め、冷静に対処してこそ、人類は生き残ることが出来るのだと思います。

 今起っている新型インフルエンザの流行においても、疫学調査で、何処で何時どのように発生し、どんな経路で広まって行ったのかが徹底的に調べられています。同時にあらゆるところから採取したウイルスを顕微鏡下で検索し、豚同士で感染していたものがどんな変化をしたときヒトに感染し、更にヒトからヒトへと移るようになったのかが調べられています。そして、ヒトからヒトへ感染するウイルスは世界中の研究機関(日本では、国立感染症研究所)に送られ、感染者のものと比較することで、新型のインフルエンザなのかを判定します。更にこれで、ワクチンを作り、まん延期に備えての予防薬とするのです。

 私たちの歯科医院を、発熱やセキ、関節痛、倦怠感などの症状がある患者さんが来院されても、治療ができないことになっています。感染地域への渡航暦なども含めて、感染が疑わしい方が来院した際には、保健所内にある発熱相談センターへの連絡が義務付けられているからです。歯痛のある方は、そこから指定された発熱外来を紹介され、そこへ行って初めて歯科治療が受けられます。全身症状の上に更に歯痛まで重なっては本当に辛いことと思います。

 感染流行期には、うがい手洗いはもとより、いつも以上に歯をよく磨いてお口の中をきれいにしておきましょう。粘膜の乾燥は感染リスクを高めますので、水分補給も忘れずに、また歯茎もマッサージして鍛えておきましょう。疲れやストレスをためないように睡眠をよくとり、バランスよい食事で栄養をつけて、全身の抵抗力をつけておくことが大切です。インフルエンザに戦々恐々としすぎると身も心も縮こまり、免疫力の低下につながります。マスクや手洗いうがいの励行も、自分の身を守るという視点からばかりでなく、周りの人への思いやりエチケットとして考えてみてはいかがでしょうか。混み合う電車やバスを避けて、爽やかな初夏の光を浴びながらの自転車利用やウォーキングも予防対策のひとつになると思います。今回のインフルエンザは弱毒性で、的確な治療を受ければじきに回復しますから、症状が出てもあわてずに、発熱相談センターに電話をして指示を仰ぎましょう。ワクチン開発も急がれていますし、まもなくウィルスが活動を弱める蒸し暑い夏がやってきます。前々回のコラムでも書いたように、「恐れるべきは恐れそのものである」といったルーズベルトの言葉をもう一度思い出して、冷静な対処で乗り切ってまいりましょう。


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