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 コラム 第52回     2008. 10. 24

ロボット博士のお話2

 今は、秋の紅葉の美しい時期です。先日、日本咀嚼学会で早稲田大学大久保キャンパスに行って来ました。広々とした敷地に7〜8階建ての校舎が何棟も建ち並び、敷地内には地下鉄新都心線の駅まであり、圧倒されてしまいました。緑も多く周辺の環境からは隔離され、静かで落ち着いた勉学の場が作られていました。

 学会では主にロボット研究の話を聞いてきました。コラム第47、48回で書きましたように、そもそも私の恩師である窪田先生が、早稲田大学創造理工学部教授で通称ロボット博士の高西先生に「ロボット工学から、口腔機能を解明してくれないか」と呼びかけて始まったことです。今回先生は、フルートを演奏するロボットの発表をされていました。指先でキーを軽やかに押したり放したり、肺に息を溜め込んで、息を吐き出すタイミングや強弱をコントロールしていました。また、唇の動きを再現するために唇に近い弾力や硬さを持ったシリコンゴムを開発して、空気の出方を微調整できるように工夫されていました。すると、単調で抑揚のない機械的な音が、あたかも人が演奏しているような音色に変わり、それが会場に響き渡ったときには、思わず拍手をしてしまいました。

 また、歯学部の学生実習用にと、「患者さんロボット」開発の発表もありました。これは、治療中に不意に手を上げて術者の手を払いのけ、治療を妨げる動きをするものでした。この動きで歯を削っている最中にロボットの口の中を傷つけると大量に出血するようになっていて、このとき術者が如何に冷静に対処できるかを記録して評価するものだそうです。またこのロボットの目にはCCDカメラがつけられていて、患者さんの目線で治療中の心理状態や、術者に対する信頼度も評価できるようなソフトとつなげてロボットの動きに連動するようになっているのだそうです。また不意の動作の後も、術者をそのCCDカメラで追い続け、状況に対しどのように対処したかを記録し、処置が的確に出来たかの判定もしてくれるというものでした。私たちの学生実習のときとは随分様変わりしたものだと、驚かされました。私たちの頃は、学用患者制度というものがあって、実際の患者さんを治療させてもらって、「あー怖かった」とか「あんたなかなか筋がいいね」などと言われ、冷や汗をかいたり、得意満面でニンマリしたりしながら実習させてもらっていたものです。今は、このような患者さんはなかなか見つからなくなり、下手をすると横で診ている指導医が、即訴えられてしまう時代になってしまいました。こんな時代ですから、このようなロボットは、とても有効な器材になるだろうと思いました。

 フルートをロボットに演奏させることを味気ないと見るかどうかは別として、指の動きを発表した人、空気の流れを発表した人、唇の動きを発表した人、これらの協同演者たちの目が生き生きと輝いていたのがとても印象的でした。ただしこれで完成したわけではなく、上体や首の動きで作る音の変化や、舌の動きで強弱をつける、いわゆるタンギングは、これからの課題だそうです。私がロボット研究の話を知ってから25年以上たって此処まで来ましたが、まだまだ再現できない構造はたくさんあります。人の体はそれほど精巧に出来ています。特に私の専門領域である口腔領域は複雑なところで、彼らのロボット研究のお陰で口腔のメカニズムが、機械工学の側面からも、どんどん解明されてきています。講演の合間に廊下で高西先生と久しぶりにお話しましたが、別れ際に日本古来の楽器、尺八を奏でられるロボット作りたいとおっしゃって、またまた驚かされました。


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