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 コラム 第48回     2008. 6. 26

ロボット博士のお話

 また、大地震の発生で多くの方たちが犠牲となる悲しい出来事が起こりました。ニュースの映像を見て、自然の脅威を感じるばかりです。ここ数ヶ月のうちに次から次に大規模な自然災害のニュースが流れ、次は何が何処に起きるのかと恐怖を感じずにいられません。被災地の方々には、一日も早い復興と健康に留意してお過ごしになられることをお祈りします。

 前回のコラムで「日本咀嚼学会」のことを書きましたが、今年の咀嚼学会学術大会(9月26日〜28日)は、高西淳夫先生(早稲田大学創造理工学部総合機械工学科教授)が大会長を努められます。ご存知の方も多いと思いますが、高西先生は別名ロボット博士とも言われていて、二足歩行ロボットを完成させた方です。その研究を基に今では人間と同じような動きが出来るASIMOやAIBO等が誕生しました。人間社会に役立てようと、更に進化させ様々な開発が進んでいます。例えば、遠隔操作で操ることで、無酸素や高熱の環境で人が行けない場所で活躍することが可能になり、災害救助等にも役立ちます。他にも家屋の警備や留守番ロボットなどは、もう現実の話になっています。先生は更に進化させた分野を開拓中で、人間の姿を細かく模したロボットを作りこれに行動パターンを記憶させることで、人間の行動や機能を再現して工学的に人間を科学することをしています。自動車の衝突の実験車にこのようなロボットを乗せてどのようなでダメージが加わるのかを分析して安全な車の開発に役立てる事が可能になります。また、足や手の動きを再現して、ハイテクな義手や義足も作ることが出来ます。

 もう20年以上前の話になりますが、高西先生は先月ご紹介しました私の恩師の窪田金次郎先生と文部省特定研究で、実際の顎の動きをそのまま再現できる咀嚼ロボットを作っておいででした。顎の関節はとても特殊な機能を持っています。ひとつの骨で左右にまたがって関節があり、一つの動きをするところは、体の中で他にはありません。そんな特殊な動きを、左右対称にある筋肉と協同で作られるのが咀嚼運動なのです。左右対称といっても人はみな歪みを持っていて、この動きを再現する事は容易なことではありません。被検者にヘッドギアのようなキャップをかぶらせ、たくさんの電極をつけて顎の動きを一度コンピュータに入力して解析し、後に電極のつながった顎の模型に出力して動きを再現するものでした。この特定研究の共同研究者たちが全国から一堂に会しての中間報告会が、水上温泉で催されたときのことでした。高西先生たちのグループが、出来上がったばかりの咀嚼ロボットを何台もの車に積んできて、会場となった旅館の玄関広間で一生懸命に組み立てていらしたのを覚えています。物理の苦手な私は、そのコードだらけで、スチールの骨組みの機械が顎と同じように動くことにただ感心するばかりでした。それと同時に、顎と同じ動きを再現するのにはこんなに沢山の装置が必要なのかと思い、ヒトの体の構造のすごさを改めて知る思いをしたのを憶えています。いったい次は何が出来るのだろうと思いつつ、その後はロボットの事は、私の中では頭の片隅に行ってしまっていました。先生は現在も、昭和大学歯学部と共同で研究を続けられています。今度の学術大会で、「歯科医学を変革するロボット工学と生体力学」と題した特別講演をされる予定ですので聞いてこようと思っています。



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