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 コラム 第47回     2008. 5. 26

恩師のお話

 中国では、大地震の発生で多くの方たちが犠牲となる悲しい出来事がありました。中国政府は、日本を始め世界各国の緊急援助活動を受入れてくれました。一昔前には考えられなかったことですが、被災者にとって、とても有りがたい事です。各国から派遣された、救出活動や災害時医療救護のエキスパートの方たちの、連携の取れた迅速な活動は心強く、現地の人々に勇気も与えてくれています。北京オリンピックを控え、世界中が力を合わせての一日も早い復興をお祈りします。

 私事ですが、先日私の大学院時代の恩師である東京医科歯科大学名誉教授窪田金次郎先生の三回忌のご法要があり、行って参りました。窪田先生は、解剖学を通じて私に医療に対する姿勢を教えてくださった先生です。先生は、およそ25年前に、日本咀嚼学会と言う学会を立ち上げられた方でもあります。日本咀嚼学会とは、歯学部だけに限定されるものではなく、理学部、工学部、医学部、看護学部、家政学部、文学部、体育学部などありとあらゆる領域から、学際的に権威の方たちに参加してもらい、咀嚼を解明しようとするものでした。そのとき私もこの学会を創設するお手伝いをさせて頂き、産みの苦労を身近で経験することが出来ました。

 先生は、東京医科歯科大学歯学部と千葉大学医学部をご卒業され、東京大学医学部で解剖学を専攻の後、母校の歯学部解剖学教室で教鞭をとられ、ナイジェリアのイフェ大学医学部に招聘され、昭和43年母校に顎口腔総合研究施設(通称:顎研)が開設されるに当たりそこの咬合研究部門の教授として呼び戻されたという経歴を持った方です。昭和54年私は、そこの大学院生として入局しましたが、顎研も設立10年が過ぎた頃で、医局員のみんなは、張りきっていました。当時の顎研では、歯やその周辺組織の機能の解明を動物進化の過程で行ったり、人体発生過程における組織完成の様子で調べたりしておりました。特に咀嚼の神経筋機構の解明は、その頃の先生のメインテーマでした。私に課せられた課題も当然その中のひとつで、歯髄神経すなわち歯の神経がどこから何処につながっているのか、そしてどんな種類の神経線維が通っているのか調べました。この事は以前(コラム第13回)にも書きましたが、かなり根気の要る仕事でした。私は、ただその研究だけをしていたわけではなく、教室の研究テーマ全てにかかわっていました。おかげでいろんな分野の先生方とお話しする機会を持てて、とても幸せ者でした。4年間だけでしたが、窪田先生の下で研究生活を送らせて頂き、本当に感謝しております。

 高齢化社会の時代になった現在、「咀嚼」が元気に生きる上でどれほど大切かは、皆さんが認識していることです。しっかり咀嚼することで、食物は、唾液と混ざりこねられます。そして、スルッと食道を通過して、胃、十二指腸や小腸に負担を与えずに、効率の良い栄養吸収を促します。また、咀嚼による筋肉の活動電位は、脳細胞の活性化を起こします。噛むことは、筋肉の収縮と弛緩の繰り返しで行われる動作です。この機能をいつまでも保つには、咀嚼にかかわる筋肉を鍛えることが大切です。そのため体操には、大きな声を出して歌うことや、腹を抱えて笑うことなどがよく言われています。また、年齢や病気による咀嚼機能の低下を補う食形態の開発には食品メーカーが、食事姿勢の維持や食器などの開発には、ベットや食器のメーカーなどが、盛んに研究しています。実はこれら全てが、この日本咀嚼学会が発信元なのです。日本咀嚼学会は、今では大きくなって日本を代表する学会のひとつに成長しました。私も学会の評議員として会に係わらせていただけるのも先生のおかげです。恩師が亡くなられた事は、寂しいことですが、先生のご恩に報いることが出来ますようこれからも頑張りたいと思っております。
 

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