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 コラム 第43回     2008. 1. 25

歯が折れたお話

  新年明けましておめでとうございます。 今年は、元日から晴天続きでとても気持ちの良い年明けとなりました。

  年初めに、ある患者さんから電話がありました。 「元日に息子が転んで前歯を折ってしまったので助けて欲しい」とのことでした。 「歯の欠片はありますか?」と伺うと、「今から探しに行って来ます」とのことでした。 翌日お母様に付き添われて来院した息子さんは、鼻の下と顎に大きなかさぶたを作って、唇も腫れた状態でした。 口の中を拝見すると、上の前歯真ん中の2本がどちらも半分くらいの大きさに、左は斜めに右は真横に割れ、歯髄も露出していました。 そしてお母様が、「電話の後現場に行って、歯とおぼしき欠片を何個か拾ってきました」とビニール袋を差し出されました。 中を見るとまさしく歯の欠片が大小5個入っていました。 (入っていたのは、石ころなどは無くて、全て歯の欠片でした。) 夕刻暗い中探してくださったお母様の愛情に感動し、何とかして差し上げようと私も頑張りました。 幸いレントゲン検査で骨折などは無く、歯髄もまだ生きていることを確認し、さっそく歯の修復にかかりました。 先ず麻酔で痛みを抑えて傷口を洗浄消毒し、なんとか歯髄を保存できるよう処置しました。 そして持参された歯の欠片をジグゾーパズルよろしく並べて接着剤で接着し、足りないところは樹脂で補充して修復しました。

  翌日には痛みもほとんど消え、歯の形も元に戻った患者さんは喜んでくださいました。 しかし今回のように、歯髄が露出して根の一部が含まれていた場合は、加わった衝撃は相当なもので、かなりのダメージを受けています。 今後しばらくは、歯をできるだけ安静にすることが大切です。 症状が消えてもまだ歯は療養中だということを忘れずに、前歯で物をかじったりすることは避け、冷たい物や熱い物の刺激にも気をつけてください。 年齢が若いほど歯髄はそのまま生き続けて接着面から内部に向かって象牙質が形成され、生物学的治癒がもたらされる可能性が高くなります。 経過をみながら、接着剤の耐用年数や審美面も考慮して、将来的には冠をかぶせるのが良いでしょう。

  さてこのような歯の外傷のときは、余裕があれば欠片を探して、乾燥させないように保管して持参しましょう。 歯が丸ごと抜け落ちた場合や、根の周りに歯根膜が付いた欠け方をした場合などには、生理食塩水(0.9%の塩水)や牛乳につけておくと良いですが、 歯冠部だけの場合は水道水でもかまいません。
根の半分くらいのところで折れた歯も、歯髄を取り除いて接着をして長年機能した症例もありますし、抜け落ちてしまった歯を再植する治療法もあります。 ケースバイケースで、治療の選択肢や予後が異なりますので、諦めずに小さな歯の欠片でも探して持参してください。

  今回は、新年早々に事故に遭われてお気の毒な事でしたが、歯髄も残せましたし、歯の形も復元することができました。 若いご本人にとっても忘れられない出来事になったことと思い、書かせていただきました。

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