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 コラム 第42回     2007. 12. 21

「偽」転じて

  今年も残りわずかとなりました。 毎年この時期になると、清水寺で今年の世相を表す漢字が発表になります。 今年の漢字は、「偽」でした。私の一番嫌いな文字です。 確かに今年は、白い恋人の消費期限の改ざん事件から始まって、ミートホープの牛肉偽装、お米の産地偽装、宮崎地鶏偽表示、赤福、お福餅、 吉兆と偽りが次から次へと出てきた年でした。 まったく何を信じたら良いのやら、食品業界の品全てを疑いの眼で見てしまいたくなりました。 ほんの一握りの人たちの偽りのせいで、みんな同じ穴のムジナなどと言われては、まじめに仕事をしている者にとっては悔しくてたまりません。

  しかし、これらの偽装事実が世の中に明らかになったのは、偽りに係わっていた人たちの中からだという事は、間違いありません。 こんなことを続けていてはいけないという気持ちから、告発に至ったのでしょう。 バレなければ何とかなる、という傾向にある中でとった行動は、とても勇気のいることだったと思います。 告発によって自らの職を失うかもしれないという覚悟は、なかなか出来るものではありません。 一人の勇気ある行動から始まった事が、社会を動かしたことも賞賛に値するものだと思います。 これからは、不正に対して、いっそう厳しい眼を光らせる世の中になることを願います。

  皆さんは、「インフォームドコンセント」と言う言葉を聞いたことがあるでしょうか。 日本語では「説明と同意」「告知に基づく同意」などと訳されています。 最近になってようやく医療の現場でも、必ず行われる様になりました。 片山歯科医院では、父の代から必ず診療内容の説明をして、その内容を理解して同意してくださってから治療を始めます。 歯科医療は、再生しない組織、つまり歯を削って治療をすることが多いので、治療中、或いは治療後に、もとの状態に戻すことが出来ません。 ですから他科の医療より、インフォームドコンセントが重要になります。

  突然飛び込んできて痛いから何とかして欲しい、とにかく痛みをとってくれればいいというのでは根本的な解決にはなりません。 何時からどのような痛みがどんなときに起きるのか、患者さんからの情報をもとに原因を見極めて、どのような治療が必要かを検討し治療方針が決まります。 当たり前のことのようですが、先を急ぐあまり直ぐに治療に執りかかって、予想もしなかった展開になってしまうことがあります。 このとき自分のミスを告白するかごまかすかで、その後の治療に大きな差が出てきます。 病院勤めをしていた頃、忙しさからそんなミスを犯したこともありました。 周りの先輩に聞こうか迷ったこともあります。 その先輩も忙しく患者さんの治療をしている最中に、自分のミスで起こった状況をどう説明するか悩むものです。 相談すると怒られるのではないかとか、馬鹿にされるのではないかとか考えるとこのまま無かったことにしようと心が動きます。

  医師は正直でなければならない。 自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。 そして生涯にわたって純粋と神聖を貫き医術を行う。私はずっと、この「ヒポクラテスの誓い」を忘れずに、治療を続けてゆきます。

  「偽」は嫌なことですが、これが出たことで、悪が駆逐され良い世の中に向かってゆく希望が見えてきたような気がします。 来年が明るい年でありますように祈りながら今年のコラムを締めくくりたいと思います。皆様お揃いでどうぞ良い年をお迎えください。

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