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 コラム 第34回     2007. 4. 23

痛かったね

  今、歌舞伎座横の通りにハナミズキが満開です。樹木図鑑で調べるとこのハナミズキは、もともとはアメリカ原産のもので、 日本からワシントンに送られたソメイヨシノの返礼として贈られたものだったそうです。 花色も白からピンク、赤に近いものまで様々と書いてありました。 ここから見える木々も、今を盛りとそれぞれの色を競って咲いています。

  先月は、最近の歯科界では、MI(Minimal Intervention 最小の侵襲)という考えが浸透しつつあると言うお話しをしました。 この考えの中身は、むし歯の治療において削る歯質の量を最小限度にとどめ、消毒、滅菌を行えば、感染歯質を残しても再石灰化や歯髄内方に 向けた二次的象牙質の添加が起きるという、生態の治癒能力に期待しようというものです。

  先日、12歳の女の子がお母様に連れられて見えました。 電話でのお話では、2〜3日前から左下の6歳臼歯(第一大臼歯)部の歯茎がはれて痛み止めを飲んでも効かないようだ、ということでした。 初めて会う彼女は、緊張で顔がこわばっていました。 問題の左下の歯茎は、プクッと腫れていましたが健康な色をしていて一目ではどこが傷んでいるのか判りませんでした。 触ってみると第一大臼歯は揺れていて、萌出間もない歯の動揺にしては、多少動きが大きいようでした。 早速レントゲンを撮って調べてみると、なんと歯を支える骨が溶けている様子が写っていました。 何処に原因があったのでしょう。 噛み合わせには、なんの問題もありませんでした。 しかし噛む面をよく見ると、溝の部分にほんの小さな範囲でプラスティックの充填物(詰め物)が見られました。 もしやと思ってこの充填物を削り取ってみました。 するとどうでしょう、中はスポンジのような柔らかさで歯髄の中まで抵抗なく器具が入っていきました。 そして突然に、中から膿がドクドクと出てくるではありませんか。 十分に膿を出した後、消毒薬を綿に浸み込ませて歯に開いた穴の中に入れて、抗生物質のお薬を出してその日はおしまいにしました。

  前に治療してくださった先生は、萌えてきたばかりの歯にできたむし歯を治療するのに、一生懸命考えてくださったと思います。 この歯は、この子の一生を考えると後何十年使うことになるでしょう。 平均寿命としても70年以上でしょう、だから少しでも削る量を少なくして、詰める部分を最小限にとどめるようと思ったのでしょう。 しかし、それが裏目に出て、詰めたプラスティックの下で取り残した細菌がどんどん仲間を増やし、挙句の果てに根の先から外に出て、 顎の骨にまで広がって、このような状況になった訳です。

  何度もお話しているように、むし歯は感染症であるため、歯の中に住み着いた目に見えない細菌との戦いになります。 したがって細菌を取り残して詰め物や冠を被せてしまうと、しばらくすると悲惨な状況になってしまいます。 今回のようにMIどころか早くに歯髄を失ってしまうことにもなります。 前回のコラムの最後に書いた「MIだからといって歯質を残し感染部分が残ったまま充填してしまってもいけません。」という文章の意味はここにあります。 偶然にも、私が心配していたことをつい先日、目の当たりにしてしまいましたので、今月もまたMIについて書いてみました。

  このように書くと私は、MIを否定しているかのようですが、そうではありません。 むしろこの考えに同感で、積極的にむし歯予防と早期発見早期治療をMIの精神に基づいて、つまり最小の侵襲に留めた治療を行っています。 特に萌えてきたばかりの臼歯は、噛む面の溝が深く汚れが停滞しやすい状況にあります。 出来る限り歯ブラシで頑張ってもらいますが、それでも心配なときには、溝をうめて汚れが停滞しないような環境づくりもします。 昔と食生活が変わって歯垢が増える傾向にある現代では、この見極めは歯科医に任された重要な役割だと思っています。 予防のためにも小さなときから、かかりつけの先生を決めて、歯科の治療椅子に慣れておくことをお勧めします。 そうすることで歯科医自身もその子の体質や性格を理解して、いざという時に十分コミュニケーションが取れることで的確な治療を確実に行えるのです。


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