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 コラム 第33回     2007. 3. 26

タイミング

 今年は暖冬でしたが、このところ冷え込んで、日本海側では大雪に見舞われたり突風が吹いたりと、定まらない天候に振り回されています。氷上のワカサギ釣りで有名な榛名湖でも湖が凍らずに、今年は人出も少なかったそうです。両親が榛名湖から車で20分ほど下ったところに住んでおりますので、私の車は毎年12月初めから3月末までスタッドレスタイヤを装着しています。しかしこの冬は、その威力を発揮せずに終わってしまうのかと思っておりましたが、ここへきてにわかに寒くなって、タイヤ交換のタイミングを少し先にずらそうかと思っています。

 先月は、歯の再生のことを書きました。その中で、「いつ」ということがキーワードでした。全ての事柄に共通してタイミングが重要ですが、むし歯の治療にもそのことが言えます。早期発見早期治療が良いのは当然ですが、そこで初期むし歯を削って何かを充填して治療するか、レーザーやフッ化物による歯面処置などで進行を止めて、いわゆる再石灰化を促す治療するか、歯科医師の判断がその歯の予後を左右します。最近の歯科界では、MI(Minimal Intervention 最小の侵襲)という考えが浸透しつつあります。考えの中身は字の通りで、むし歯の治療において削る歯質の量を最小限度にとどめ、歯の寿命を長くして一人でも多くの方に8020(80歳で20本の歯を維持しようという日本歯科医師会が提唱する努力目標)を達成してもらおうという訳です。

 何度もお話しているように、むし歯は感染症であるため、歯の中に住み着いた目に見えない細菌との戦いになります。したがって研究者は、むし歯になった歯のどこまで細菌が侵入しているのかをいろいろな角度から解明することに必死に取り組んでいます。たとえば病理学者は、肉眼的に見える状況が顕微鏡下でどうなっているかを部位別に検索し統計的に細菌の進入範囲や歯質の溶解範囲を求めることで、どこまで削ればよいかを報告しています。また薬理学者は、細菌に汚染された歯質のみ染め出して削る範囲の目安を肉眼的に明示する薬剤を作り出しています。さらに細菌に汚染された歯質のみを選択的に溶解してしまう薬剤を作ったりもしていますし、むし歯の原因菌を選択的に退治する薬を開発してもいます。ただし、未だどれも完璧なものはなく、臨床医はこれらを混合し応用してむし歯治療に当たっています。

 このようにお話しすると、むし歯は簡単に退治できるかに聞こえますが、実はこのあとの欠損部を修復する材料の研究開発も重要となります。今の主流は、欠損部の表層歯質に樹脂を浸み込ませ、その上に磨耗に備えて可能な限りセラミックなどを混ぜた硬質樹脂を貼り付けて固める方法です。しかしこれにもまだまだ課題がたくさんあります。樹脂の膨張収縮や、耐摩耗性による耐用年数の短かさや生体毒性、環境問題などクリアしなければならない課題がまだまだ多くあります。数年のうちに接着がはがれて樹脂を取り替えなければならないことも稀ではありません。このような治療も何度か繰り返すうちに、歯髄炎を起こしたり、歯牙の破折や変色による審美面の問題で結局は、削って型を採り冠を被せる治療が必要となります。このようになるならば従来の方法のように、健康歯質を含めて、箱型に歯を削り、型を採ってそこに金などを鋳造したものを充填する方法のほうが長い年数保持される場合もしばしばあります。

 そこでどの程度のむし歯なら、またどの部位に出来たむし歯なら、いわゆるMIの考え方で治療を行うべきかという見極めが重要になるわけです。
 そもそもこのような治療が可能になったのも、科学技術の進歩で新しい歯科材料が開発されたからでもあるわけです。これらの材料の特性を良く知りこれを生かして、ベストの治療をするのが我々歯科医師の役目です。

 MIだからといって、感染部分が残ったまま充填してしまってもいけません。また、一本の歯だけでなく周囲の歯や、その人の体質や生活環境等にも配慮した治療を心がけるべきです。その結果としてMIの概念から反れてしまったとしても良いと、私は考えています。
 方法の選択とタイミングの見極めが歯科治療においても、とても重要なことなのです。

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