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 コラム 第32回     2007. 2. 26

歯が蘇るお話

 お蔭様で、1月29日に銀座開院から40年が経ちました。今日を迎えるまで様々な形で支えて下さいました皆様に、この場をお借りいたしまして心よりお礼申し上げます。今後ともご支援ご鞭撻下さいますよう、お願い申し上げます。

 先日2月19日の各紙の朝刊に、東京理科大学で行われたマウスの実験で、完全な形の歯の再生が100%の確立で成功したと報じられました。私にとってこの内容は、特に新しいことではありませんでしたが、成功率が100%だったことに驚かされました。抜けた歯のあとに歯の芽を植え付ける事で、また新しい歯が生えてくるわけです。この研究は、世界中の研究所においてなされていて、現在理論の上では、前歯と奥歯、つまり切歯と臼歯の作り分けも可能です。更には、上顎の歯と下顎の歯の作り別けも可能です。そのメカニズムを簡単に説明しますと、まずエナメル質を形成する上皮組織細胞と象牙質、セメント質、歯髄を形成する結合組織細胞を分離培養します。それらを特殊なゼリー状の液の中に混ぜて入れ攪拌したものを生体内組織(理科大では腎皮膜)に注入すると、歯胚という歯の芽ができます。これを顎の骨の中に植えると歯となって出てくるのです。これは自分の細胞で作ったものですから、移植後に拒否反応を起すこともなく、自分の歯として機能させることが可能なわけです。これでインプラントなどの異物を体内に埋め込むことなど必要なくなる訳で、嬉しい限りです。

 しかし、これを臨床に応用しようとするとまだまだ解決しなければならない問題が山ほどあります。いくつかの問題点を挙げてみましょう。先ず第一に、歯胚を何時何処で作ってどのように保存するかが問題になります。歯胚は、歯が完成するまで成長し続けますので、この時期が重要なわけです。また、新しい歯が必要なとき人工的に歯胚を作るための組織がもうどこにも存在しない年齢になっていたら今の技術では諦めるしかありません。ですから本来の歯胚が在るうちにあらかじめ作っておき使う時まで保存する必要があります。精子バンクのように、液体窒素の中に無菌冷凍保存するのが一番です。

 次に、いつ植えるのかということです。どの段階にまで成長した歯胚を顎の骨の中に植え付けるとうまく機能する歯が出て来てくれるのかということです。
 第三の歯を植え付ける手術は、自家歯牙移植といって、自分自身の歯を歯の抜けた別の場所に植え替える手術の方法がありますので、これに準じて行えばうまくいきます。その場合、歯根の完成状態が2/3以内であれば、最後まで根が完成してくれて、そのままの状態で機能する歯になります。しかしそれ以上か、歯根が完成して出来上がった歯を移植したときは、歯髄は生活力を失い後日根の治療をして、冠を被せる事が必要となります。つまり、再生歯の移植の場合も、歯根が完全に完成する前に冷凍保存して必要になったとき解凍して手術で埋め込めばよいのです。

 いずれにしても自分自身の歯が復活するのですから、安心して過ごすことができます。つまり、骨と歯根の間には、歯根膜が出来て、以前に書きました神経終末のセンサーもできるので乳歯、永久歯についで、文字通り第三の歯になるわけです。ここがインプラントとは違うところで、私はこの技術が確立されたなら、是非とも取り入れたいと思っています。

 しかし、まだまだ研究段階で時間が必要です。人工的に作った歯が本来の歯と比べてどれほど長持ちするかなど全く判っていません。それに、将来必要になるかわからないことに準備しておく事の有意性や、歯胚を作るために傷つけた本来の歯胚からは、無傷の歯が生えてくるのかどうかと言う事なども分かっていません。更に倫理上の問題も未だ何も議論されていませんし、もっと基本的な部分で解決すべきことも残っています。ですから、今の段階であれば、臨床医としては、神様が与えて下さったものを大事にして、歯を失わないようにすることに労力を費やしたいと思います。

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