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  コラム  第13回    2005.7.20

歯の痛み

 ようやく梅雨が明け、暑い夏がやってきました。私は、とても暑がりなので結構辛い季節です。今年は、クールビズで職場の室温を27℃前後に定めるという狙いがあるようですが、暑さで思考能力が低下する事への配慮も欲しいものです。ヒートアイランド現象で今年も40℃を越す日があるのでしょうか。打ち水効果を狙って道路に水を撒く計画もあるそうですが、果たしてどれほどの効果があるのでしょう。体温コントロールの苦手なひとにとって暑さを我慢するのは非常に辛い事です。

さて、歯科治療においても皆さんは我慢されているのでしょうか。我慢する時には、歯を食いしばって堪えるといった表現を使いますが、歯の治療中ではそうは行きません。ある患者さんは、歯科の治療椅子は、死刑囚が座る電気椅子に匹敵するとおっしゃっていました。何処からそのようなイメージが浮かぶのでしょう。歯の痛みは、鎮痛剤を飲んでも効かないほど強く起こる場合があります。その上、痛みを堪えて治療椅子に座ると目の前に先の尖った器具がいくつも並べられていて、電気ドリルの振動やタービンの音の恐怖が痛みを増幅してしまうのでしょうか。一度激烈な歯の痛みを経験した方にとっては、まさに電気椅子に違いありません。出来ることなら薬だけでなんとかこの痛みが治まらないものかと思うのも無理はありません。2〜3日で嘘のように痛みが和らぐこともあり、このまま放置してしまいたい気持ちにもなるでしょう。しかし、以前にも書きましたが、歯には自然治癒能力が無いので放置していると必ずまたぶり返します。歯は、治療しないと治りません。虫歯や歯周病については、病因論から対処法まで詳しくお書きしましたからそちらを読んで頂くとして、今回はこのような歯の痛みについて考えてみましょう。

 歯の構造は、第2回目のコラムの図でお解り頂けると思いますが、歯の痛みは、その中心部にある歯髄組織の中の神経線維から起こります。では、この神経線維が何処から来るのかを辿ってみましょう。歯の神経は、根の先端を出ると上顎骨や下顎骨の中を通り、頭蓋骨の中に入ります。そこですぐに左右の三叉神経節という第X脳神経の細胞の集まりに到達します。三叉神経は、主に知覚神経ですから神経節細胞からもう一本の神経線維が、知覚中枢に相当する主知覚核と脊髄路核へ向かって出てゆきます。実は、私は大学院の時このあたりのことを電子顕微鏡を使って追いかけていました。少し専門的になりますが、歯髄の神経線維は、一本の直径が2〜4μの細い線維が85%程を占めこれをAδ線維といって痛覚伝達線維と呼んでいます。残りは、5〜8μの直径を持つAβ線維で触覚や圧覚を感知する線維が殆どを占めています。小さな歯髄組織の中に合計すると500本前後の神経線維が数えられ、血管と神経線維を豊富に含んだ組織と言えます。ですから何時の頃からかこの歯髄組織の事を俗に歯の神経と呼ぶようになったのかもしれません。
 
さて、歯の痛みは、その原因によっていくつかに分類されます。一つは、外来の刺激によって起こるもので、水や空気による温度刺激であり、甘いものや細菌の毒素などの化学物質による浸透圧の変化であります。もう一つは、歯髄の内部の圧が変化した場合に起こるもので、血管の充血や化膿による膿が充満した事によるものが挙げられます。歯髄は周りを硬組織に囲まれているため内圧の亢進は、直接神経線維の圧迫に繋がりますので痛みが強く現れるのです。激烈な痛みは、これら全てが重なったときに発現します。いわゆるC3がそれで、象牙質が全部感染して細菌が歯髄にまで到達した状態です。さらに一部が化膿した歯髄をなんとか防御しようと血液が充満した時に起こる内圧の亢進が痛みを起こすのです。
 
 今回は少し難しい話しになってしまったかもしれませんが、このようになる前に治療しましょう。そうすれば歯科の治療椅子も電気椅子にはならないと思います。今本院での最年少の患者さんは、もうじき2歳の男の子ですが、治療椅子に座るのを楽しみにしています。1歳に満たない時期にむし歯が出来てしまったときは治療は出来ませんでしたが、今ではタービンの音もエンジンの振動も平気です。彼は、歯の治療は痛くないし怖くないと思っているから平気なのです。慣れるまで歯を削ったりはしませんでしたのでむし歯は進みましたが、今では大人と同じように治療が出来ます。乳歯の虫歯は進行が早いからと、最初のとき押さえつけて無理やり治療していたら治療椅子が電気椅子になっていたでしょう。治療が出来るようになるまでは、お母さまといっしょに治療椅子に座ってもらって今後のむし歯予防の方針をお話しましたので新たな虫歯は一本も出来ていません。災い転じて福となすで、永久歯になってもむし歯の無い子でいられるよう一緒に頑張りたいと思っています。

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